平成16年(わ)第726号の第七回公判の傍聴の続き。



2人目の証人に対する弁護側の反対尋問。
検察からの尋問で様々なことを証言したため、弁護側は、この証人に対する反対尋問は90分を予定するとした。
裁判所は、来ている残り2人の証人の今日中の尋問は無理と判断し、お帰りいただくことに。


Winnyに関する捜査に関与しだしたのは平成14年9月頃からであった。
平成15年11月27日、12月26日に被疑者として被告人宅を検証し、平成16年5月10日に被告人を逮捕した。
自分は、五条警察署の応援派遣であり、主に捜査しているわけではない。
11月27日の最初の検証においては、被告人宅での捜査手法は自分に一任されていた。
どのように検証するかは自分で考え、検証の方策は自分が決めた。
捜索差押えは数をこなしているので、誰がどうしろと言うわけでもなく行われた。
11月27日と5月10日の時の捜査会議には、意思統一などのために、(捜査員のほぼ)全員が出席していたと思う。
PCなどの知識は独学であり、資格は持っていない。


甲89号証について

11月27日の検証は、プログラムソースの押収を目的としていた。
被告人宅にて、どのようなことをしようと決めたのは自分である。
同日に正犯2名への送受信実験があったことは知っていたが、被告人宅からの送信用に京都府警のPCの準備がされていたとは聞いていない。
平成14年9月頃にWinnyを知ったが、その経緯は覚えていない。
誰かから聞いたなどではなく、(ハイテク犯罪対策室の中で)自分が見つけた。
他の事件により著作権関連の団体と知り合い、WinMX、オンラインストレージ、ステガノグラフィによる著作権法違反などの事件の度に話をした。
話の中で、法的、事務的なことは教えてもらっていたが、ネットワークについては教えてもらっていない。
著作権関連の団体とは、映画、ゲームに関連する著作権保護団体である。
団体の方からは、著作権法違反の事例などを聞いていたが、検挙してほしいという要請はなかった。
11月27日の検証のとき、プログラム開発と利用者は別だと考えていたため、被告人のことを頭から参考人としていた。
当日は、送受信実験は予定していなかった。
ソースファイルを押収しようとした理由は、Winnyの詳しい仕組みを理解するためである。
正犯の逮捕はできるが、起訴までしようとすると、ソースを見てWinnyの具体的な動作を知らないといけないと考えたためである。
甲89号証の1項に「Winnyのプログラムソースを押収し、プログラムの送受信機能を確認して、コンピュータが公衆送信装置の機能を有することを確認するため」とあるように、もともと、ソースをその場でコンパイルし、そのプログラムで送受信機能を確認する予定だった。
被告人宅でプログラムの解析をすることが目的だったのではなく、プログラムの解析は時間がかかるので、持ち帰ってからでも解析できるように、ソースを押収することが目的だった。
解析の結果、公衆送信できた場合であっても、被告人を参考人から被疑者にするつもりはなかった。
検証に行く前から、配布ページを閉鎖するように頼もうと自分の心の中では思っていた。
そのときは、配布ページの閉鎖を強制することはできなかったと考えている。
依頼したときは「これで著作権侵害が起こっているから、配布をやめてくれないだろうか」のような口調で、特に大声を出すなどはしていない。
その後、参考人調書を同行した巡査が取った。
自分はその間、取調室を出たり入ったりしていた。
被告人は、今後Winnyの開発をしないという旨の申述書を書いた。
紙を用意したのは、被告人が、「もう(Winnyを)公開をしないので誓約書を書きたいので紙を用意してほしい」と言ったからである。
Winnyのソースは解析するために押収していたのに、前回までの証人の証言では、未だに解析が終わっていないような感じを受けるのは気のせいでしょうか。
被告人が、今後Winnyの開発をしないと誓っていたのは知りませんでした。

DVDリップとは、正犯の井上被告が掲示板上で使用していた言葉であり、DVDのデータを抜き出すことである。
DVDリッピングの略であり、自分はDVDからリッピングをしたことはない。
DVDからリッピングは、市販のソフトでおそらくできると思うが、確認したことはない。
サイバーパトロールとは、ハイテク犯罪対策室の(サイバー捜査班?)が行っており、ネット上で違反状況があるかどうかを確認することである。
自分の仕事は啓発活動が中心であるが、平均すると毎日1、2時間ほどのサイバーパトロールを行っている。
あらゆるところを対象としており、主としているところは特にない。
自分はサイバーパトロール2chをあまり見ていない。
Winny2 BBSは選定の時に時間をかけて見たが、正犯の摘発以前は見ていなかった。
Winny2 BBSでは映画ジャンルの放流告知スレを主に対象としていたが、当時は放流告知スレが多かったために、放流告知スレが見つけにくいということはなかった。
当時はWinnyのBBS機能は全く分からないものだったので、どこを押せばどうなるのかを調べて使い方を知った。
BBS機能の動作について、ネットワーク上でどうなるのかは自分の常識からその動作を推測した。
スレをたてた人のPC内にスレッドのデータが作成され、そのスレを閲覧=ダウンロードするためにはスレをたてた人のPCに接続しなければならないため、一瞬だけスレをたてた人のPCに接続される。
WinnyのBBSが匿名掲示板であるということは、名前なしで書き込めることだと理解している。
合法スレがあったのは見たことがない。
ファイル共有の部分では分散システムを取り入れているのに、BBSではスレをたてた人のPC=スレデータを持っている人のPCと安易に推測してしまっても良かったのでしょうか。
正犯を検挙できたことから、この考えは結果的には合っていたのでしょうが、自分の常識からの推測だけではなく、客観的な裏付けはあったのでしょうかね。

甲160号証について

「合法」というキーワードを用いて合法なファイルをダウンロードした。 
ハイテク犯罪対策室のPCのWinnyを設定したのは誰なのかは分からない。
そこ(検察側の椅子)に座っている検事に頼まれてこの実験を行った。
府警の回線の種類は光回線である。
ダウンロードできたファイル数は50〜100ほどであった。
自動ダウンロード機能とは、「合法」という文言がファイル名に含まれていればそれをダウンロードする機能である。
他のダウンロードソフトで自動ダウンロード機能があるのは見たことがなく、自分は便利な機能だと思う。
捜査以外でWinnyを使用したことはない。
ダウンロードされたすべてのファイルの中を見てみると、著作権を有しない(と判断できる)ものが多くあった。
(甲160号証の11-12項を見せられながら)合法なファイルは著作権者を特定できないし、自分は特定していない。
調書には、クラシック音楽について「プロの演奏」であると記してあるが、自分の意見でしかない。
「CD等に固定されていたもの」とも記してあるが、それの確認はしていない。
「W32.Antinny」が含まれているファイルがあることから、ウィルスもあることが分かる。
写真番号16には「ツチノコの写真 この写真を勝手にコピーしないでください」とあるが、自分はこの写真を著作物だと思う。
勝手にコピーしないでと書いておきながらWinnyに流していることから、勝手にコピーされてしまうのは必至である。
著作権法について勉強会をしたり等はしていない。
「合法」ファイルの合法性、違法性は分からない。
ファイル名からファイルの中身が分かることは基本的にはないが、推定はできる。
合法なファイルのファイル名にわざわざ「合法」とつけるのは、自分の認識では、Winnyで違法なファイルが頻繁にやりとりされているからであり、Winnyを合法利用しようとしている人たちが名付けていると考えられる。
Winnyでファイルをダウンロードしたのは1時間ほどであり、その間に100個ほどの「合法」ファイルがダウンロードされた。
その多くはファイルサイズの小さいものであった。
検事に頼まれて行った実験だったとは驚きです。

Winnyではファイル送信機能があることが問題であるかのような考えだったが、ホームページでデータを公開しても同様のことになりうるため、Winnyでもホームページでも同じことである。
自分はファイル共有の精神はすべらしいと考えており、違法でなければ、そのアイデアはいいと思う。
被告人と同行した巡査とのやりとりの中で、被告人が感情を損ねることになった、そのすべてのやりとりは分からないが「あんたは2ちゃんねらか」などというあたりから聞いていた。
その声の大きさは普通であっただろうが、自分は、被告人のプライドが傷ついたと思った。
被告人は「被疑者なのか参考人なのか」と現場で何度も聞いてきたが、その度に参考人であることを告げた。
被告人には黙秘権の告知はしていなかった。
Winnyについて勉強したときに参考にしたものはインターネット上のサイトであり、本や雑誌は見ていない。
具体的なホームページについては、そのようなメディアの情報は鵜呑みにしないというポリシーがあるため、1つのサイトではなく常に複数のサイトを見るようにしているので分からない。
被告人の配布ページにはインストール等について何も書いていなかった。
Winnyの使い方で分からないとき、ヘルプでの確認はできなかった。
何かエラーが発生したとき、Winnyから警告が出ることはなかった。
Winnyをインストールして、動くようにまで設定したことがあり、ダウンロードしてきたファイルを解凍し、インストールした後に接続作業を行った。
正犯2名宅からの送受信実験で大きなファイルが送信できなかったのは知っている。
このことについて、話し合いはしていないが、自分の中での考えはある。
前回の公判の証言では、キーロストによるエラーはその旨が表示されていたと思うのですが、この方の中では「何らかのエラー」に属さないのでしょうか。
送受信実験で大きなファイルが送信できなかったのを知っていて、自分の中で考えがあるほどですから、キーロストを知らないはずはないと思うのですが。

著作権関連の団体とは、私企業ではない。
知り合ったのはかなり前で、平成11年頃に、ウェブ割れWinMXなどの具体的な事件の捜査を通じて知り合った。
最初にWinnyを知ったのは、団体を通じてではなく、自分でであった。
雑談の中で、Winnyの話が出てきて、やっぱり問題になっているのだと認識した。
ハイテク犯罪対策室に団体の方が来るのは多くて年1回程度であり、電話が多く、著作権関連の事件の時には連絡が頻繁になる。
著作権団体との会話の中で、Winnyの正犯だけではなく、作者も捜査してほしいなどという話は一切していない。
サイバーパトロールは他のファイル共有ソフトも対象であり、LimeWireカボス、昔であればGnutellaWinnyの後ではShareなどが挙げられる。
団体から言われたことがあるのはWinMXWinnyについてである。
WinMX以外に、Winnyの捜査をしたのは、著作権侵害が著しかったためである。
いろいろなファイル共有ソフトを監視しているようですね。
オープンソースな共有ソフトもありますので、ソースから動作の詳細を解析して、違法なファイルの共有を防ぐ方策を考え出してもらいたいですね。

被告人の事情聴取は参考人として行った。
詳しくは調書を見てほしいが、「著作権侵害を蔓延させてネット社会の著作権を云々」と言い出したので、こんな前例のない事件は現場では判断できないとして、証拠物を持ち帰ることにした。
聴取の前に被告人への黙秘権の告知はやっていない。
被告人の逮捕により、ファイル共有ソフトを開発していた企業がその開発をやめたという事例は知らない。
11月27日の事情聴取は、検証に同行した巡査が調書をとり、3時間ほど本富士警察署で行った。
被告人が警察署に行くことになったのは、本人が警察署に行くと言い出したからである。 事実と異なる証言であることを主張するために被告人は首を大きく横に振る
被告人が「今からどこへ行くのですか」と言うので、本富士警察署に行くと答え、一緒に行くことになった(?)。
始めから、被告人に任意同行を求めようとはしていた。
被告人は眠そうなそぶりはなく、はきはきと、むしろ自慢げに事情聴取に応じた。
Winnyの客観的な機能を聞こうと思っていたが、本人が言い出したことの方が大事だと思って、聞かなかった。
3時間ほど事情聴取を行ったが、Winnyの客観的な機能のことは聞かなかった。
本部とは連絡を取っておらず、すべて自分に一任されていた(?)。
自分が取調室を出入りしたのは4、5回ほどであり、中にいた時間はまちまちであった。
(甲89号証の写真番号23、24、26、30について、最終的な判断は裁判所が行うのだが、被告人の現場供述であることを証人に確認した。)
一任されていたにもかかわらず、現場では判断できないとしたのはなぜなのでしょうか。
判断できない状況になれば、一任されていたとしても、本部に連絡するのが当然のように感じますが。

本日2人目の証人が検察からの尋問で、弁護側が予期せぬ証言をしたため、次回は本日2人目の証人の反対尋問を30分に区切って行うことから始めることになった。その後、今回は宣誓だけしかしていない2名の証人に対する尋問。
検察側は、証拠に関する意見書を提出した。また、甲151号証の調書添付の請求をした(?)。
これで終わりです。
聞き取れていない部分が多数存在する上、やりとりをまとめるような書き方になってきているので、主旨が若干変化してしまっている箇所があるかもしれません。